コロナ禍が過ぎ去った後、「リベンジ消費」が起こると言われていますが、今年は望みが薄いと思います。
こう話すのは、クラフトビール・バー「WE Brewery」を営むスティーブ氏。同店ではオリジナルブレンドのクラフトビールとアメリカンフードなどを楽しむことが出来る。2016年の開店以来、天津に住む外国人を中心に口コミで噂が広まり、今では様々なバックグラウンドを持つ顧客に親しまれている。
「リベンジ消費」とは、自宅に籠もっていた消費者が、感染症流行が収束したのを見計らって「親の仇」とばかりに消費に走ることを言う。
これは飲食店だけでなく、多くのサービス業界でも期待されている現象だ。確かに、これまで外出を控えていた分、消費者の財布は膨らんでいるかもしれない。しかしスティーブ氏は、リベンジ消費はすぐに起こらず、ある程度の時間を要すると予測している。
Steve:2003年のSARSの時、マスメディアからのニュースが人々の唯一の情報源でした。しかしSNSが発達した今、個人単位でも情報を拡散することができます。しかしそこには不確実な情報やデマも多く存在し、メディアリテラシーのない大部分の人は、盲信してしまいます。不安を煽る情報が多い中、人々がより慎重になるのは仕方のないことです。二次流行が来た時のことも考え、今はお金を残しておこうと考える人もいるはずです。
突然のコロナ禍は私たちの生活や計画に影響をもたらした。スティーブ氏も同じだが、彼の場合は少し特殊だった。
バカンスからの帰国珍道中
Steve:毎年の春節は必ず家族と一緒に海外で過ごしています。今年はベトナムに行きましたが、天津に戻るまでが本当に大変でした。
悠々自適なバカンスを過ごしていたかと思いきや
波乱はここベトナムから始まった…
まず、ベトナムから中国に戻るフライトがキャンセルになり、ホーチミン空港で身動きがとれなくなりました。中国に飛べないなら、別の場所を経由して行こうと思いましたが、日本はフライトがあるけどトランジットビザが下りない。香港はビザなしで行けるけど、チケットがとれない。やっとの思いで、タイ行きのチケットを定価で買いましたが、またしてもキャンセルに。それから紆余曲折ありましたが、なんとか上海にはたどり着けたので、ひとまず安心しました。
上海浦東国際空港にて
天津に戻ってからは営業再開に向けて準備をしました。様々な手続きを経て、先週やっと開くことができました。でも、以前のような状態には戻っていません。もしかすると今回の影響でお客様も含めた多くの人々のライフスタイルが変わっているのかもしれません。
ウィルスの影響は天津人のライフスタイルにも変化をもたらした
WEBreweryが開店したのは2016年の時のこと。
当時、天津人にとっての「外食」とは、火鍋や串焼きを食べながら、酒をハイペースで胃袋に運ぶことだった。二次会といえばカラオケで歌うことくらいしかなかった。だから、開店当時は来客の9割が外国人だったそうだ。
しかし、様々な業態の飲食店が天津に現れると、ライフスタイルに変化が見られた。2019年の時点で、地元の来客は5割を占めるようになった。WEの様なレストランバーで、お喋りをしながら、ゆっくりグラスを傾けるというスタイルが徐々に受け入れられてきた。
Steve:その矢先に訪れたのが今回のコロナ禍です。ゆっくり時間をかけて形成されてきた文化が、今回の件で後退する気がします。
もともと、私たちの提供するサービスは生活必需品でありません。それに代替が効くものだから、「宅飲みで十分じゃないか」と考えるでしょう。また、病気のリスクが高くなった今では、ジョギングをして余暇を過ごすかもしれません。このように、人々は社会に合わせてライフスタイルを形成していきます。ウィルスへの警戒心が解けない間は、人々は理性を保ち続けるでしょう。これが、リベンジ消費がすぐにやって来ない理由です。
現時点で天津市内の飲食店は概ね営業を再開している。ただ以前に比べて、気軽に外食できなくなったのは確かだろう。こうした事態の対応策として、急遽デリバリーを始める飲食店も増えてきた。WEも3月末からデリバリーを始めている。
バーとして出来る事
Steve:フードメニューにしろ、クラフトビールにしろ、最高の状態で味わってほしいです。テイクアウト用の缶ビールもありますが、やはりサーバーから注いだばかりのビールには敵いません。
WEでは全8種類のクラフトビールを味わうことが出来る。
夏場はすっきり爽やかに、冬場はコクのある味付けにしたり、季節に合わせてレシピを変えている。
それに私たちが提供しているのは、食べ物や飲み物だけでなく、コミュニケーションの場なのです。人間は社会的な動物で、人と交流することに喜びを感じます。そこにおお酒が加わることによって、腹を割ったコミュニケーションが出来るのです。家で飲むのは安上がりで安全かもしれませんが、お店にいるような雰囲気を味わうことは出来ません。
私たちは4月上旬から営業を再開していますが、以前の様な賑わいは取り戻せていません。本当は毎年の3月16日にアニバーサリーイベントをしているのですが、今年は叶いませんでした。でも諦めた訳ではなく、3月16日を逆さまにした6月13日に開催して「リベンジ」する予定です(笑)。その頃には店のあちらこちらから笑い声が響いてくるといいですが。
取材協力:WE Brewery
住所:天津市和平区西安道怡和里4号
電話:186-3088-8114
営業時間(現在):17:00~21:30
営業時間(通常):17:00~0:00