この特集では営業再開を実現した天津市内の日本料理店にスポットを当て、その取組を紹介していきます。第一回は開発区の「和食処・うち田」です。
取材/井上直樹
翻訳/卯月
2020年3月4日午後、濱海新区
2020年3月4日午後、取材のため濱海新区の「和食処・うち田(以下内田)」を訪れた。
お店の入り口には、いくつかの注意書きが貼りだされている。
「同時入店人数は10人まで」
「お客様同士の間隔を1.5mあけてください」
「マスクを着用の上ご入店ください」
入店時は検温と連絡先の登録を行う
QRコードのスキャンも必須
店内に入ってすぐの場所には体温計(非接触式)と手の消毒液が置かれている。入店時には来客の氏名、電話番号、体温を記録。体温が37.2℃以上ある場合は、入店を断る権利がある。それでも聞かない場合は通報するように指導されている。あとはウェイシンで「津门站疫」のQRコードをスキャンすれば、晴れて入店できる。
ここで手と靴を消毒することができる。
その隣のポスターには消毒実施日時と、働いているスタッフの氏名、検温時間、体温が書かれていた。これは毎日書き換えなければいけない。
内田:指定の貼紙やポスターを全て貼っておかないと営業再開許可が下りません。私達のお店がある濱海新区の美華ホテルは、区域を管轄する街道办事处に申請を出します。
体温計を買うのは本当に大変でした。薬局やネット上には、接触式しかなかったので、代购をやっている友人をつたって、やっと非接触式のものを手に入れました(定価の倍以上を払うはめになりましたが)。消毒液は20Lのボトルを2つで500元くらいです。一日3回、店内の隅々まで消毒します。
体温計や消毒液は全て自分で探して、自腹を切らなければならない。営業再開にも一定のコストがかかるようだ。
営業再開までの流れ
やっとの思いで体温計と消毒液などを買い揃え、1月28日に営業再開の申請を出した。事前に入手しておいた「営業再開までのワークフロー」を見て必要書類も揃えた。
それから3日後の3月1日。街道办事处の担当者が、チェック表を持って検査に訪れた。チェック内容は体温計や消毒液を完備しているかどうか、掲示物は見えやすい位置に貼り出しているか、フロアや厨房の消毒がしっかり行われているかどうかなど。その場で許可が下り、3月2日からの営業再開が許された。
内田:早速、火曜日からお店を開けると、常連のお客様が2名ほど来店してくださいました。ただ、1テーブルにお一人様ずつしか座れないので、飲み会とか宴会はまだ難しいですね。お弁当の注文は今日(3月4日)で7件入っています。
家賃や人件費といった固定費は発生しつづけているので、本当は値段を上げたいところですが、今は昔と同じ値段でやっています。
家賃の減免はあるのか?
湖北省の武漢市では、小規模経営者向けに家賃の減免措置が取られている場合も多い。ここ天津では、国有資本が保有する物件を借りている中小企業については、3ヶ月分を無料に、その次の3ヶ月分を半額にするという発表があった。それ以外の物件を借りている中小企業については、現時点では「貸主による家賃の減免を奨励し、双方の協議により解決する」という内容に留まっている。
参考:《房租3个月免收3个月减半!天津帮中小企业渡疫情难关》http://www.xinhuanet.com/fortune/2020-02/20/c_1125600455.htm
内田:家賃を安くしてくれたり、タダにしてくれれば、営業の仕方を考えなおそうと思っています。でも、いまのところ物件の所有者であるホテル側からは連絡が入っていません。とりあえず体温計と消毒液のコストを取り戻せるように頑張ります。
もう一つ心配なのは、働いてくれているスタッフのこと。料理長は帰省先から身動きがとれない状態です。彼が帰ってきてくれれば、もう少し手広く仕事ができるだけに残念です。お皿洗いのおじさんと服務員さんはずっと天津にいたので直ぐにでも出勤できますが、やることがないので自宅待機してもらっています。
私達はお店が出来てからずっと休みなく働いていました。春節は一年にたった一度のまとまったお休みです。
休み明けに営業をストップされた時は、「これで少しだけ多めに休めるかな」とか思ってましたが、段々と不安が募ってきました。普段は「あ~休みたい~」と思ってたんですが、今は休んでも楽しめないです。
2020年に思うこと
取材も佳境に入ったところで、店主の携帯電話が鳴った。かけてきたのは街道办事处の担当者だった。このあと16:20に見回り検査にくるという。
この「常連さん」は来る前に電話をしてくれるらしく、夜の営業が始まる午後に来ることが多い。抜き打ち検査ではないものの、不備を指摘されて再び営業停止になることも考えられるので、気を抜くことはできないだろう。
営業時間外に筆者のような部外者がいては困るだろうと思い、暇乞いをして去ることにした。立ち上がり、改めて店内を見渡してみると、貼紙が至るところにあり、普段よりも整然とした印象を受けた。この「臨戦態勢」の裏側には、お店側の見えない努力が隠されている。
内田:4月には正常に戻ればいいですが、まだまだ何が起こる分かりません。2020年に期待していた事も沢山ありますが、今年の年末に「大変だったけど、何とか乗り越えられたね」思うことができれば、それだけで満足かもしれません。
私達が期待すること
濱海新区では飲食店の営業再開が徐々に行われている。本文でも述べたとおり、こちらでは管轄の街道办事处に届け出を出すことになっていた。うち田の店主から、営業再開申請のワークフローを見せてもらったところ、申請の流れや必要書類などが詳細に記されていた。
3月初旬時点で、市内六区の飲食店はほとんどが営業再開を見合わせている。いくつかの経営者に話を聞いてみたが、行政からの具体的な指導や再開手続きの手順については触れられていない。
市内六区の経営者たちも、濱海新区の様な具体的な手順の開示を一日千秋の思いで待っていることだろう。ただし、経済への影響を懸念して「复工」を急ぎすぎると、せっかく抑え込めていた感染リスクを高めることになってしまう。行政としては判断に迷うところだと思うが、消費者の安全を守ることを前提とした复工政策の発表が待たれる。
取材協力:和食处・うち田
お店ランディングページ
住所:濱海新区美華大酒店1Fテナント
電話:18622606088
営業時間:17:30~21:30(事前予約、1テーブルに1名まで)
※お店を利用する際は、感染防止に関する規則、管轄区域が定める規定などを必ず守り、お店側の指示に従ってください。